岐阜県・少年ホームレス投石暴行殺人事件

ホームレスの男性に投石・暴行して殺害、強豪校の野球部少年ら5人を逮捕も、少年法の壁。

2020年3月25日午前2時5分ごろ、岐阜市寺田の路上で、「知人が数人の男に蹴られた」と、一緒にいた自称住所不定、無職の女性(68)から110番があった。

現場に駆けつけた岐阜県警岐阜北署員が倒れていた男性を見つけ、男性は病院に運ばれたが、約6時間半後に死亡が確認された。

署によると、死亡したのは住所不定、無職・渡辺哲哉さん(81)で、頭部骨折のほか、顔面と左肘にすり傷があった。

県警は死因を調べるとともに、渡辺さんが何者かから暴行を受けた可能性があるとみて捜査。現場は伊自良川の堤防沿いで、民家や農地が点在している場所だった。

事件の経緯

岐阜市の路上で、路上生活者(ホームレス)とみられる無職渡辺哲哉さんが何者かに襲われて死亡した事件で、岐阜県警は4月23日、県内に住むいずれも19歳の少年5人が関わったとして、うち3人を殺人の疑いで、2人を傷害致死の疑いでそれぞれ逮捕した。

殺人容疑で逮捕されたのは安八町の会社員、大垣市と瑞穂市の無職の少年。傷害致死容疑で逮捕されたのは県内の同じ私大に通う瑞穂市と山県市の2年生。

逮捕容疑では、5人は共謀し2020年3月25日未明、渡辺さんに石を投げつけるなどの暴行を加え、さらに殺人容疑の三人は殺意を持って頭部に強い打撃を加えて右後頭部打撲の傷害を負わせ、脳挫傷などで殺害したとされる。傷害致死容疑の二人は、石を投げるなどして死亡させたとされる。

県警は、捜査に支障があるとして5人の認否を明らかにしなかった。5人は友人同士という。

捜査関係者によると、渡辺さんは頭蓋骨を骨折しており、司法解剖の結果、死因は脳挫傷と頭を強く打ったことによる急性硬膜下血腫と判明していた。県警は、逮捕した5人のうち3人が殺害行為に加わったとみて凶器の特定などを急いだ。

渡辺さんは約20前から、岐阜市河渡(ごうど)の長良川に架かる河渡橋の下で生活。一緒に暮らしていた無職の女性(68)によると、事件当日、橋の上付近から何者かに石を投げられ、二人で逃げたという。先行する女性が振り返ると、橋から約8百メートル北の同市寺田の路上で渡辺さんが倒れていたという。

渡辺さんらは、事件直前の3月中旬から4回、夜間に投石される嫌がらせを受けたと県警に相談しており、相手は「複数の若者たちだった」と話していたという。県警は今回の事件との関連を調べ、当時の県警の対応については「適切と判断している」と説明している。

渡辺さんらが被害を訴えたのは3月中旬以降。一緒に暮らしていた女性によると、携帯電話を持たない二人は投石があると、事件時と同様に近くの店舗に逃げ通報していた。

女性は取材に「捜査を求めたが、警察官からは『いたちごっこになるから、アパートに引っ越してほしい』と言われた」と話す。だが、渡辺さんは猫をかわいがり、別の場所で暮らすつもりはなかったという。

また、事件後に通報装置を渡されたといい「なぜ事件前に持たせてくれなかったのか」と疑問を語っている。

捜査関係者は「周囲のパトロールや聞き込みをしていた。行政と協力し、生活保護を受けてもらおうとしていた」と話す。県警は当時の対応について、改めて「適切だった」と説明した。

しかし、ホームレス支援に関わるノンフィクション作家北村年子さんは「ホームレスは危害を加えられても110番をためらうことが多い。警察や行政に住んでいる場所を立ち退くよう言われるからだ。4回も通報したのはそれだけ緊急だったと推測される」と話している。

一方、岐阜市によると、毎年冬にかけて市内を見回るが、ホームレスに生活保護を受けてアパートなどに住むよう提案しても断られる例は多く、通常時の対応も難しさがあるという。市生活福祉二課の中村宏泰課長は「(今回のような事案に)未然に対応できるよう警察と情報共有を強化したい」と語っている。

計画的犯行か

2020年4月25日、逮捕された少年らが渡辺さんと一緒に暮らしていた無職の女性に襲撃前、「今日は用事がある」などと話しかけていたことが、女性への取材で判明したと報じられた。

女性によると、生活拠点だった岐阜市河渡(ごうど)の河渡橋の下で女性がテント内にいたところ、物が当たる音がして、外で寝ていた渡辺さんが「来たぞ」と叫んだ。警察に通報するため外に出ると「今日は用事がある」と声が聞こえたという。

女性は自転車で逃げようとしたが、ライトを照らしながら近づいてきた一人に前方をふさがれて自転車を蹴られた。さらに別の一人には石を投げられた。その後、渡辺さんと一緒に逃げたという。

捜査関係者によると、少年五人のうち傷害致死の疑いで逮捕された瑞穂市と山県市の二人は、いずれも朝日大(瑞穂市)の硬式野球部員。殺人の疑いで逮捕された三人のうち、大垣市と瑞穂市の無職の二人は、同大の元野球部員だった。もう一人の安八町の会社員を含め、五人は野球を通じた友人同士ということが報道で明らかにされた。

朝日大「厳正に対処」

朝日大は4月24日、ホームページで「報道が事実であれば学生としての本分を著しく逸脱した行為であり、厳粛に受け止め、厳正に対処する」と、大友克之学長のコメントを発表した。

同大は、逮捕された現役の硬式野球部員二人に同日付で自宅謹慎を命じ、野球部の全ての活動停止を決めた。また、藤田明宏監督の辞任届も受理した。

殺人や傷害致死の疑いで逮捕された少年五人は、野球を通じた友人同士だった。中には高校時代に中心選手として活躍し、将来を期待された少年もいる。

傷害致死の疑いで逮捕された二人は朝日大(岐阜県瑞穂市)の硬式野球部員で、うち一人は高校時代に野球部で中軸打者を務めた。殺人容疑の三人のうち、無職の二人は同大の元野球部員。うち一人は別の高校で有力選手として活躍し、甲子園出場を目指していた。

朝日大関係者によると、現役の野球部員二人は、事件前から練習にはほとんど参加していなかった。「うち一人は故障をしたというような話を聞いた」と言う。

同部は過去五回、全国大会に出場。今回の事態を受け、逮捕された学生に科される社会的制裁を見極めた上で、部の存廃についても対応を決めると発表。

大学関係者は「インターネット上で野球部のことをいろいろ書かれ、今後のことも分からない。メンタル的にきつい」と語った。

その後、逮捕された少年5人のうち2人が所属していた硬式野球部で、事件とは無関係の複数の学生が就職活動で「企業側から内々定の保留を伝えられた」などと大学に相談していることが、関係者への取材で判明。事件に関わっていたかのようなデマや中傷を実名でインターネットで拡散される被害も相次ぎ、大学が対応に追われた。

同大によると、少年らの逮捕後、野球部の四年生三人から内々定保留の相談があった。事件との関連は不明だが、部内では「自分たちもどうなるか分からない」と不安が広がっているという。担当職員が各企業を回り、事実や意向の確認を急いだ。

ある学生は野球を就職後も続けたいと社会人チームなどがある企業を志望。3月には好感触を得ていたが、逮捕後、同社関係者から「内定がスムーズにいくか分からない」と担当者の言葉を伝えられたという。この学生は「もしかすると野球の道を諦めないとならないかも」と悩んだという。

ネット上では、事件とは無関係の部員を名指しで犯人扱いする書き込みなどが氾濫。部員の名前を並べ「殺人犯候補者リスト 違うなら自己責任でそう主張しろ」と書いた掲示板もあった。部員二人は県警に相談している。(中日新聞 2020.5.02 朝刊 23項 社会面より)

朝日大の都尾元宣学生部長は「事件とは関係ない他の学生が、被害に遭ってはならない。野球部の関係者や他の学生たちを全力で守っていく」と話した。

20年

約20年間、ひっそりと路上生活を送っていた渡辺哲哉さんは、暮らしぶりが多くの地域住民らの目に留まっていた。容疑者が逮捕された23日、居住地の跡で献花し、手を合わせる市民の姿もあった。

近くの女性住民(53)によると、二十年近く前から渡辺さんを橋の下で見掛けるようになり、数年後には同所で女性が一緒に暮らすようになったようだという。

渡辺さんは色黒のやせ形でTシャツにズボン姿のことが多かった。「公園で服を洗濯したり、体や顔を洗ったりしていた」。コンクリート上で十枚以上の毛布や布団を干すことも。別の男性(66)は「図書館で本や雑誌を読む姿を見かけたことがある」と振り返る。

女性看護師(57)は、渡辺さんが自転車の前後に大量の空き缶を積み、橋を渡るのをよく見たという。夫の会社員(59)によると、公園の水を勝手に使ったとして注意されることもあった。だが、空き缶を集める姿を「朝早くから頑張っているな」と感じることもあったという。

渡辺さんはアルミ缶15kg分を集めてようやく得た1000円を猫の餌代に充て、自分にはわずかな生活用品しか買わなかったという。また事件後も、猫たちが渡辺さんを待つ姿が見られたという。

逮捕後

岐阜地方・家庭・簡易裁判所

送検

殺人などの疑いで逮捕された、いずれも岐阜県内の19歳の少年5人が、現場付近の複数の防犯カメラなどに写っていたことが、捜査関係者への取材で判明。

少年らは現場付近まで車に乗って来ていたことも判明し、県警は事件前後の少年らの足取りを調べた。

捜査関係者によると、5人のうち殺人容疑で逮捕された3人が、渡辺さんを岐阜市河渡(ごうど)の河渡橋付近から約8百メートルにわたり、執拗に追いかけて頭部に強い打撃を加え、殺害したとみられている。傷害致死容疑の2人は、途中で殺人容疑の3人と離れたものの、橋付近で渡辺さんに石を投げるなどし、死亡させたとされる。

県警は、付近の映像の解析などから少年らを特定。それぞれの関与の度合いなどを調べた。

4月25日午前、県警は少年五人を送検した。

4月27日、渡辺さんらが暗がりの中、近くからライトで照らされる一方、離れた場所にいた別の人物から石を投げられていたことが、一緒に逃げた無職の女性への取材で判明。

女性は加害者らが役割を分担していたように感じたという。岐阜県警は殺人などの疑いで逮捕した少年5人が、事前に申し合わせて現場を訪れたとみて、捜査を進めた。

渡辺さんもライトで照らされ、二人で逃げる間も後ろから照らされた。女性は男らが投石とライトの担当に分かれて襲撃していたように感じたといい、「計画的と思う」と話している。

家裁送致

岐阜地検は5月15日、殺人容疑で逮捕された岐阜県内の三人のうち、瑞穂市の無職の元少年(20)を傷害致死罪で起訴した。安八町の会社員(19)、大垣市の無職少年(19)は傷害致死の非行内容で岐阜家裁に送致した。

一方、傷害致死の疑いで逮捕された、いずれも県内に住む19歳の朝日大(同県瑞穂市)の男子学生二人は嫌疑不十分として家裁に送致しなかった。地検によると、他の少年と渡辺さんが暮らしていた河渡(ごうど)橋付近まで行ったが、暴行の共謀は認められなかった。

起訴状によると、当時19歳だった元少年は家裁送致の2人と共謀、3月25日午前1時35~50分ごろ、岐阜市の河渡橋から約1キロにわたり追いかけながら渡辺さんに石を多数回投げつけた上、土の塊を投げて顔面に当てて路上に転倒させ、右後頭部打撲の傷害を負わせて脳挫傷などで死亡させたとされる。

元少年は逮捕後に20歳になったため、成人と同様に起訴された。家裁送致の二人を含め三人は岐阜県警に殺人容疑で逮捕されたが、地検は殺意はなかったと判断したとみられる。前述の通り、認否は明らかにされなかった。

岐阜家裁は5月15日、送致された二人について二週間の観護措置を決定した。少年法によると、16歳以上が故意の犯罪行為で人を死なせた場合、原則として検察官送致(逆送)される。起訴されれば、元少年と同様に公開の法廷で裁判員裁判を受けることになる。

岐阜地検が嫌疑不十分として家裁に送致しなかった朝日大の男子学生2人について、朝日大の大友克之学長は「学内の調査委員会に新たに学識経験者二人を加え、調査をさらに進める」とのコメントを発表した。

その後、5月25日、岐阜家裁は傷害致死の非行内容で家裁送致された岐阜県安八町と同県大垣市のいずれも19歳の少年二人の観護措置を二週間更新し、6月10日まで延長することを決定した。

少年院

6月10日、岐阜家裁は傷害致死の非行内容で家裁送致された岐阜県安八町の少年(19)を検察官送致(逆送)、同県大垣市の少年(19)は初等・中等(第一種)少年院送致とする決定をしたと発表した。決定はそれぞれ9日付と8日付。

守屋尚志裁判官は、安八町の少年の決定理由で「約一キロ追いかけながら石や土の塊を投げており執拗」と指摘。履いていた靴を事件後に燃やして証拠隠滅を図るなど悪質で、刑事処分が妥当と結論付けた。大垣市の少年は、他の少年らが渡辺さんに土の塊を投げた時は離れた場所におり、関与の程度は小さいとした。

6月18日、岐阜地検は傷害致死の罪で、岐阜県安八町の少年(19)を起訴したが、認否は明らかにされなかった。

少年については、前述の通り地検から送致を受けた岐阜家裁が、刑事処分が相当として9日付で検察官送致(逆送)を決定していた。

トピック:ネットに広がるデマ被害

インターネット上では、デマ情報や誹謗中傷の投稿が相次いだ。事件とは無関係な人に被害が広がっている。

4月23日、岐阜県内に住む19歳の少年3人が殺人容疑で、同じく19歳の少年2人が傷害致死容疑でそれぞれ逮捕された。

少年法では、19歳は少年で、少年時の犯罪は記事などの実名掲載を禁じている。しかし、ネットでは「大学名も実名も出すべきだ」など、少年たちを特定する動きが高まった。

逮捕直後、傷害致死容疑で逮捕された2人が朝日大学(岐阜県瑞穂市)の硬式野球部に所属していると一部で報道があり、大学も認めた。(朝日新聞が大学の公表後に報じた)

「特定できそうですね。知ってる人はぜひともリークして下さい」「犯行の動機と住所も特定か」

硬式野球部では、無関係の学生がネットで容疑者扱いされ、実名や顔写真をさらされた。「野球」というキーワードで、大学以外でも無関係の男性が複数、実名を書き込まれた。

このうち1人については、過去に所属していた少年野球チームがインスタグラムで声明を公表。「彼は事件に一切関与していない。デマ情報については、訴訟を視野に警察署に相談している」と投稿した。チームの関係者は「彼や彼の家族にも危害が及ぶのはおかしい」と訴えている。

傷害致死容疑で逮捕された2人は、「暴行を共謀した事実が認められない」として不起訴処分となった。

しかし、大学には約1カ月間で「学生の実名を出せ」などの約750件の問い合わせや抗議の電話、メールが殺到した。

前述の通り、学生の就職活動にも影響が及んだ。大学の関係者によると、逮捕の報道があった数日後、硬式野球部4年生の3人は内々定が保留となったという。看護学科の女子学生らは、企業の面接で「事件についての意見」を求められた。別の企業から「事件とは無関係か」と電話で念を押された学生もいる。

担当者は、学生には何かあれば相談するよう伝える一方、学生が不利益を被らないよう、企業を回って事情を説明しているという。

事件後、大学は有識者を交えた学内調査委員会を設置。渡辺さんが事件前にも投石被害を受けていたことについても調査し、「過去の投石行為にも、ほかの学生の関わりはない」と結論づけた。