群馬県・安中市原市父親介護殺人事件

「母を助ける」「お前を殺して俺も死ぬ」寝たきりの父に突き刺した包丁

2019年9月15日午後9時5分頃、安中市原市安中の両親宅で、無職の父・笹原進さん(76)が、会社員の息子・笹原慎也容疑者(44)に包丁で刺された。

進さんは左胸を刺されて意識不明の重体となって病院に運ばれたが、2日後に出血性ショックで亡くなった。

安中署は同日、笹原慎也容疑者を殺人未遂容疑で現行犯逮捕した。調べに対し、笹原容疑者は容疑を認め、「かねて父の母に対する態度が許せなかった」と供述した。

同署幹部によると、この日、両親宅には今後の生活について話し合うために親族が集まっていた。笹原容疑者は飲酒した状態で両親宅に現れ、台所にあったとみられる文化包丁を持ち出し、病気のため1階寝室で横になっていた進さんを刺したという。

犯行の経緯と詳細

「お前を殺して俺も死ぬ」。寝たきりの父に包丁を振り下ろした男は、家族に制止されながらもそう叫んだ。

2019年9月15日午後9時5分頃、安中市原市安中の両親宅で、無職の父・笹原進さん(76)が、会社員の息子・笹原慎也容疑者(44)に包丁で刺された。

安中署は同日、笹原慎也容疑者を殺人未遂容疑で現行犯逮捕した。調べに対し、笹原容疑者は容疑を認め、「かねて父の母に対する態度が許せなかった」と供述した。

事件直後、駆けつけた警察官に「父の暴言がひどく、自分がやらなければ母が苦労すると思った」と語ったという。

進さんは左胸を刺されて意識不明の重体となって病院に運ばれたが、2日後の17日、高崎市内の病院で出血性ショックで亡くなった。

被告は3人兄妹の次男。高校卒業後は父が営んでいた建設業に従事した。被告人質問で、当時の父を「職人気質で口調は厳しかったが、市内では評判の大工。憧れの存在だった」と振り返った。

しかし2008年8月、脳出血で倒れた父は左半身麻痺(まひ)の後遺症が残り、母が介護した。被告は父のために、実家にスロープや手すりを作った。福祉車両を借り、紅葉を見に連れて行ったこともあった。家業はその後3年ほどで廃業。被告は県内の清掃会社に勤めながら、週末などには実家を訪れ、介護を手伝った。

父は年々、家族に暴言を浴びせるようになった。母には「うるせえ、このバカアマ」と怒鳴り、ひわいな言葉でののしった。2019年8月、一時的に介護施設へ預けられたのを機に、父の暴言はさらに悪化した。

1カ月ほどで帰宅後、事件直前には幻覚や妄想など認知症とみられる症状も出始めた。父について話し合う兄妹のグループLINEには、酒に酔った被告が「おやじを殺す」「俺が刺し違える」などと書き込むこともあった。

そんな日々が続き、迎えた9月15日の夜。前日の夜から父に何度も呼びつけられて困った母が、電話で被告の妹に相談。妹は被告に電話をかけ、父をなだめるよう頼んだ。被告は既に自宅で酒を飲んで寝ていたが、迎えに来た妹の息子の車に乗せられ、実家へ。到着すると被告は母や妹に目もくれず、台所に向かった。取り出した包丁を逆手に持ち、ベッドに寝ていた父の体に振り下ろした。

「今お兄ちゃん包丁持ってたよね?」。妹が気付いたときには、被告は父の左胸に包丁を押し込むように前かがみになっていた。

「痛てえじゃねえか!」。父が叫ぶ。「お前を殺して俺も死ぬ」と被告が怒鳴った。

包丁を引き抜いた被告の体を母が押さえる間に、妹が外にいた息子を呼び、119番通報した。3人がかりで取り上げようとした包丁は、救急隊が到着するまで被告の手に握られていた。「ごめんよ、ごめんよ」。床に座り込み、涙を流しながら母や妹らにそう繰り返す被告の姿を、駆けつけた警察官は目にした。2日後、留置先へ面会に来た家族から父の死を知らされ、被告はその場で泣き崩れたという。

判決とその後

前橋地検は2019年10月4日、安中市原市、会社員・笹原慎也容疑者を殺人罪で前橋地裁に起訴した。

2019年9月15日、群馬県安中市安中1丁目の実家で、父(当時76)の左胸を包丁で刺し、2日後に出血性ショックで死亡させたとして殺人の罪に問われた無職笹原慎也被告(45)=同市原市=の裁判員裁判。前橋地裁での公判で被告は「犯行当夜の記憶がない」として無罪を主張。殺意の有無が争点となった。

しかし法廷で被告は、犯行当夜の「記憶がない」と繰り返した。事件直後に警察官と話したことや、検事の取り調べの内容も「覚えていない」と沈黙する場面も目立った。一方、最終意見陳述では「人生の先輩である父に取り返しの付かないことをしてしまい、家族にも絶望を与える結果になった。後悔と謝りたい気持ちでいっぱい」などと口にした。

弁護側は「飲酒の影響で制御が利かず、(脅そうとして)勢い余った可能性もある」などと殺意を否定し、無罪を主張。仮に罪に問われるとしても家族が厳罰を望まず、被告や父の知人らから刑の減軽を求める嘆願書が2700枚近く集まったとして、情状酌量を求めた。

検察側は「抵抗できない父の左胸を狙って力任せに刃を押し込んでおり、殺意があったことは明らか」として懲役10年を求刑した。

2020年7月9日の判決。懲役7年を言い渡した水上周裁判長は、被告が「以前から母を助けるために父を殺害することを頭に浮かべていた」と述べ「極めて危険性の高い行為をちゅうちょなく行った」として「殺意は強固」だったと断じた。

被告は、自分を見つめる傍聴席の親族らに何度も頭を下げ、法廷をあとにした。