平塚市札場町資産家女性強盗殺人事件

闇サイトで殺害計画、初対面の2人が起こした凶行。

2017年2月22日午前11時過ぎ頃、鳥海広子さん(当時80歳)が1階寝室のベッドで血を吐いて仰向けに倒れ、布団をかけられた状態で死亡していた事件である。

事件の経緯と動機

「母が吐血して倒れている。呼びかけても反応がない」

事件は2月22日午前11時過ぎ、茅ケ崎市内に住む長女が鳥海さん宅を訪ねて発覚した。長女はすぐに119番通報したが、病院に搬送される間もなく、その場で死亡が確認された。島海さんの首には紐状のもので絞められたような痕があり、死因は頸部圧迫による窒息死だった。

犯行現場は、現場はJR平塚駅から南東に約1キロの住宅街の一角にある。近くに相模湾をのぞみ、潮の香りが漂う普段は静かな地域だ。民家は2階建てで、鳥海さんは1階寝室のベッドの上で布団がかけられた状態で見つかった。島海さんの首には紐状のもので絞められたような痕があり、司法解剖の結果、死因は頸部圧迫による窒息死と判明した。神奈川県警捜査1課は23日、平塚署に捜査本部を設置し、95人体勢で捜査を始めた。

鳥海さんは1人暮らしで、室内に特段荒らされたような形跡はなかったため、当初は、知り合いによる犯行ではないかと推測された。室内は荒らされた形跡はないもの、鳥海さんの財布などが見当たらず強盗殺人、または、鳥海さんの資産を狙った可能性もある事件とみられていたが犯人逮捕は難航した。

島海さんは前日の21日には、庭でガーデニングをしているのが近隣住民に目撃されており、犯行は22日に行われたものとして捜査された。

鳥海さんは茅ケ崎市周辺に土地を所有し、駐車場として貸し出すことや、アパートの家賃収入を得ていた時期もあり、地元では資産家として知られていた。

侵入経路にも謎が残り、1階台所の窓ガラスが割れていたが、足跡などはっきりした証拠は検出されていなかった。

2019年1月15日、遺体周辺の遺留物から検出されたDNA型が犯人の1人と一致したことから東京大田区東六郷の元消防士で塗装江・斉藤義伎(当時23歳)と奈良県香芝市磯壁町の自称アルバイト・河島楓(当時22歳)を逮捕した。DNA型が一致したほか、現場周辺の防犯カメラに2人の姿が映っており、また事件後、河島楓は昨年の12月、偽造した運転免許証を使用したとして県警に逮捕されていた。鳥海さんの私物を使用したことが判明し、取り調べにて、島海さん殺害に関する供述を始めたことから、逮捕へとつながった。

2人と鳥海さんとは面識がなく、顔見知りの犯行ではなかった。また齊藤と河島はインターネットのいわゆる「闇サイト」の求人募集で知り合い、犯行に及んだ。

闇サイトと犯行の動機

斉藤義伎と河島楓

事件直前まで面識のない赤の他人だった斉藤と河島。

2人を結びつけたのは、いわゆる「闇サイト」だった。

平成28年10月ごろ、塗装工・斉藤被告はギャンブルなどで約500万円の借金を抱えていた。高校卒業後に消防士の仕事に就いたが、それも辞め、困窮していたという。河島被告も同様に、専門学校を中退後、キャバクラのボーイなどの仕事を転々とするが、成人してから消費者金融で金を借り、約70~80万円の借金があった。

そんなふたりが高収入の仕事を求め閲覧したのが「闇サイト」。斉藤被告は事件直前、ここで報酬300万円の仕事依頼の書き込みを見つけて主犯の杉山光明(当時47歳)にコンタクトを取る。斉藤被告は鳥海さんに対する強盗殺人事件を起こす10日前、この杉山とともに、杉山の知人である高齢男性宅に宅配業者を装って押し入り、暴行を加えてキャッシュカードなどを奪う事件を起こしている。

そのため今回の裁判員裁判では強盗致傷でも起訴されていた。だが、その強盗致傷事件は成功しなかったため、杉山から別の強盗殺人を持ちかけられた。ターゲットは、殺害された鳥海広子さん。杉山は人工透析のため通院していたが、鳥海さんも同じ病院に通っており、ベッドが隣同士で通院の時間帯も同じだったという。

最初の強盗致傷で斉藤被告が得た報酬は数十万で、闇サイトに書き込まれていた金額よりもかなり少なかった。次に誘われた鳥海さん強盗殺人に対しては、1000万円という巨額の報酬と杉山が暴力団とのつながりあるという恐怖心から、斉藤はこれを引き受けた。

だが、人殺しなどやったこともなく、一人ではとても実行できないと感じたため、「本日来ることが出来る方」と条件をつけ報酬200~300万円で新たに闇サイト掲示板に求人の書き込みをした。これに乗ってきたのが、当時奈良県に住んでいた河島被告だ。神奈川県に出てくるお金も持っていなかったことから、斉藤被告から2万円を振り込んでもらい、上京してきた。

河島被告は片道の交通費を出してもらった負い目から強盗殺人の実行役を承諾。ふたりで夜中に鳥海さん宅に忍び込み、主に河島被告が鳥海さんの首を絞めて殺害した。

斉藤被告のそれまでの人生はあまりにも“普通”だった。切れ長の目元に長身のジャニーズ系イケメンである斉藤被告は千葉県で生まれ育ち、高校時代は野球に打ち込む。卒業後も少年野球チームでコーチを務めていたが、仕事を始めてからお金のやりくりができず、借金が500万円へとかさんでいった。

それに対して、河島被告はここまで、不幸な人生を歩んでいた。幼少期に両親が離婚。姉と施設で暮らし、小学3年生から母親のもとへ引き取られ、妹も加わり4人暮らしが始まった。母親は何度か交際相手を変えたが、どの男性も母親や河島被告に暴力を振るっていた。学校に通えず不登校になり、カウンセリングを受けていたこともある。そんな河島被告が事件に加担したのは借金返済のためではない。顔を変えるためだった。

鳥海さん殺害後、通帳や現金20万円入りのバッグを奪ってきた2人。直後に斉藤がこのバッグを杉山に渡したが、杉山は1円の報酬も支払わないまま、なんと音信不通になってしまう。殺害を実行したのに無報酬だった河島被告はその後も闇サイトで仕事を探し、詐欺グループの受け子や出し子などを引き受け、これで得た金でようやく整形手術を受けた。法廷の河島被告は二重だが斉藤被告と同じく切れ長な目で、首の後ろに十字架のタトゥーと、左目の下にピアスを入れている。これらも詐欺で得た金を使ったという。

音信不通になった杉山が犯行を思いたった動機はそもそもなんだったのか。だが、これは謎のままとなってしまった。杉山は、斉藤被告と河島被告が逮捕されるより前、昨年11月に49歳で病死しており、今年2月、被疑者死亡により書類送検された。

主犯・杉山の存在は、鳥海さんの通院先を捜査するなかで浮上した。鳥海さんとは同じ時間帯に隣のベッドでそれぞれ人工透析を受けており面識があったこと、また鳥海さんが過去に杉山に300万円渡したことをノートに記載しており、金銭での繋がりがあることがわかっのだという。その後捜査員らが杉山の携帯電話の使用履歴を精査したところ、斉藤への多数回の発信が確認でき、3人が捜査線に浮上した。生前鳥海さんが、なぜ杉山に大金を渡したのかについては、当事者2人が死亡していることから永遠に謎のままとなった。

彼らが利用していた闇サイトはいまも存在しており、そこには「内容が明記されてない」にもかかわらず「高収入を得られる」仕事の求人がいくつも書き込まれている。闇サイトは現行法では取り締まることができず、この現状は当分、変わりそうにない。

判決とその後

2018年9月25日、横浜地裁の青沼潔裁判長は「尊い一命が奪われた結果は重大で、犯情は重い」として、元消防士・斉藤義伎(当時24歳)の裁判員裁判で検察側の求刑通り無期懲役の判決を言い渡した。

青沼裁判長は判決理由で、インターネットのサイトで仲間を募り殺害を依頼してきたが事件後に病死した男(当時49歳)の不起訴から得られる報酬目当てに被告が計画に加担したと認定した。「人命より利欲を優先させる生命軽視の身勝手な動機で、厳しい非難は免れない」と述べた。

さらに、宅配業者を装う当初の計画が失敗後、ただちに寝込みを襲う計画に切り替えた点も、「強い犯意と計画性が認められる」と指弾。「ネットを通じて実行役の共犯者を募集し、犯行時には被害者の身体を押さえつけるなど、重要で不可欠な役割を担った」とし、無期懲役から減軽する理由はないとした。