熊谷6人連続殺人事件

閑静な住宅街で突如起きた外国人による動機不明の連続殺人

熊谷6人連続殺人事件とは、2015年(平成27年)9月14日・9月16日の計2日にかけて埼玉県熊谷市で発生した連続殺人事件。

所轄の埼玉県警察熊谷警察署から脱走して小学生女児2人を含む市民の男女6名を相次いで殺害した加害者の男(事件当時30歳・ペルー人)は「ペルー史上最悪の連続殺人犯」ペドロ・パブロ・ナカダ・ルデニャの実弟だった。

犯行の経緯や動機

事件前日の2015年9月13日12時半すぎ、住所不定無職(前日まで群馬県伊勢崎市のサラダ製造工場に派遣社員として勤務)のペルー人の男が熊谷市内の民家の庭に侵入した。

住民が「何か用ですか?」と声をかけると、男は電話をかけるような仕草で「ケイサツ、ケイサツ」と言い、さらに財布を手で叩きながら「カネ、カネ」と言ったという。住民は熊谷消防署玉井分署に連絡し、13時半ごろ、同署の署員が「片言の日本語で『ポリスに電話してください』と話す外国人がいる」と熊谷警察署籠原駅前交番に通報し、交番の警察官2人が13時45分に通報現場に臨場した。

男は「ペルーに帰りたい」という発言を繰り返し、スペイン語を発したため、警察は通訳が必要と判断し(通訳の手配を要請したのは15時ごろ)、男を熊谷署へ案内した。

警察は身分や所持品の確認を行ったあと用件を確認すると、男は「神奈川にいるお姉さんのところ・・・」「ペルーに帰りたい」などと述べ、警察は男に親族に電話をかけるよう指示すると、親族の日本語も片言であったほか、男は通話中に泣き出した。

同日15時ごろ、男はトイレに行くとそこでも泣き出したり、問い掛けを無視するなどした。男はその後喫煙休憩を求め、署員1名が付き添い玄関外の喫煙所で一服した。15時半前、庁舎へ戻ることを促されると、現金約3,400円やパスポート、携帯電話が入った荷物を署内に置いたまま(手ぶら)、署員を振り切って警察署前の国道17号(中山道)を赤信号を無視して横断し、向かいのファミレスに逃げ込み、署員1人が追い掛けたが見失った。

警察が携帯電話の通話履歴などを調べたところ、男が事情聴取を受ける前に複数の外国人知人と連絡をとっていたことがわかった。警察が通話相手から話を聞いたところ、男は身の周りの異常を訴え、後述のように「殺される」と話していたという。

熊谷署は、この時点では犯罪の嫌疑はないものの、男が日本語による会話がほとんどできないことや、所持品を置いたまま逃走したという不審点から、何らかのトラブルを起こすと判断し、15時38分ごろから7人態勢で、15時50分ごろからは約20人態勢で捜索を行い、男の親族に男が訪ねて来たら連絡するよう依頼したほか、親族宅に署員を派遣した。

同日17時9分ごろ、署から約500m離れた住宅(16日の事件の現場の近所)から「敷地内の物置に外国人が侵入していたので声をかけたら逃げた」、17時34分ごろには同所から約270m離れた住宅から「中東系の外国人が侵入した」という110番通報があった。侵入者と思われる男性が侵入先の住宅付近の路上で会社員男性に対して疲れた様子で「カネ、カネ」と金銭を要求し、断られると近くの車を覗き見て、注意されると走り去ったという目撃証言がある。

また1件目の通報者によると、16時ごろに物置を見たときは異常がなく、16時40分ごろ、自宅の物置の中で長袖Tシャツにジーパン姿の浅黒い肌の外国人風の男が、手ぶらで青白い顔で怯えた様子で立っているのを発見し、外へ出るように促すと物置から退出し、男は無表情のまま「カナガワ」と言い、事情を聞こうとすると急に走り出し、柵を乗り越え住宅街へと逃走したといい、翌日被害届を提出した。

この件に関しては早々と、逃走した男が犯人であると署は把握しており、18時40分ごろからは警察犬も加わって捜索を行ったが(出動要請自体は男が署から逃走した時点で出ていたが、埼玉県警には直轄警察犬が存在しないため、活動開始まで約2時間50分を要している)、警察犬による捜索は約55分間、400mで臭気が途切れて終了しており(警察犬なしでの捜索は20時40分ごろまで行われ、その後パトカー2台による重点警戒に移行)、16日に男が自殺を図る(未遂)まで身柄を確保できなかった。

14日夕方、熊谷市見晴町の住宅(上熊谷駅から南に約500m、荒川の河川敷のそば)で男女2名(夫婦)が殺害される(第1の事件)。

この事件は18時5分ごろに妻の散歩仲間の女性が夫婦宅を訪ねたときに発覚したが、この女性が17時すぎに散歩に誘うメールを送った時は了承する旨の返信があったという。

夫妻の部屋の壁にはアルファベットのような文字が血で書かれており、警察は犯人が書いた可能性があるとみて調べている。

15日には、警察は13日17時9分ごろの通報者の敷地に侵入した疑いで、男の逮捕状を取っていた。

しかし、不審者情報を自治体や教育機関に提供せず、理由について「一般的に住居侵入事案は周知しない」と回答している。

16日、市石原の自宅(石原駅から北に約400m、第1の事件の現場から北西に約1km)にいた独身女性1名が殺害され(第2の事件。通報は16時23分、警察が発見したのは16時50分)、別の住宅(第2の事件の現場から西方に約80m)にいた母親とその娘の小学生2児の3名が殺害された(第3の事件)。

17時14分ごろ、警察官が第3の事件が発生した住宅に第2の事件の聞き込み捜査のため訪問したところ、照明が点いているにも関わらず応答がないことを不審に思い、周囲を覗いていると17時27分にこの家の2階から両手に包丁を持った男が顔を出した。

17時33分ごろ、警察の説得を無視して自殺(両腕を包丁で数回切った後窓から投身)を図り、頭部を強打・骨折し意識不明となったところで警察に身柄を確保され、所持していた包丁2本を押収され、深谷市内の病院へ運ばれた(第3の事件の被害者が発見されたのは、男の身柄が確保された後である)。身柄確保時、男は被害者宅にあった服を着ていた。

男はしばらく意識不明の状態が続いていたが、9月24日に意識が回復し、10月8日に退院した。同日に第1の事件の被疑者として(殺人及び住居侵入)、11月4日に第2の事件の被疑者として、11月25日に第3の事件の被疑者として、それぞれ逮捕された。

一方、男は全ての容疑を否認している。

犠牲者は包丁により殺害されており、犠牲者のうち大人4人は複数の切り傷を負っているが、小学生の姉妹はともに一突で失血死していることが判明している。

埼玉県警熊谷署捜査本部は、小学生姉妹が一突きで殺害されていることから、男に強い殺意があったとして捜査を行っている。

すべての遺体に男が隠そうとした痕跡が見つかり、現場となった3つの住宅では第三者が飲食をした形跡が見つかった(夫婦宅では男がビールを飲んでいたことが判明している)ほか、16日に殺害された独身女性の自宅は、遺体発見時冷房装置と照明器具のスイッチが入ったままで、男がこの家で一夜を明かした可能性がある。

現場となった3つの住宅はいずれも鍵が壊された形跡がなく、男の運動靴と特徴がよく似た土足の跡が玄関や窓から室内に続いていたため、警察は男が無施錠の家を狙った可能性があるとみている。

判決とその後

さいたま地方裁判所は2017年4月10日より、本事件の刑事裁判の第1回公判前整理手続を開始し、19日に発表した。弁護側が請求していた精神鑑定が採用され、精神科医による精神鑑定が行われた。

捜査段階と別の医師のもとで改めて実施された精神鑑定の結果、訴訟能力について、「自分が裁判にかけられていることや弁護人がついているということを理解する能力が阻害されている」として、精神疾患があるとする判断が示された。

4回にわたる公判前整理手続きを終え、2017年12月4日、さいたま地裁(佐々木直人裁判長)は、裁判員裁判の初公判期日を2018年1月26日に指定した。

同年2月19日まで、計12回の審理を行い、同年3月9日に判決を言い渡す予定とした。
さいたま地裁における本事件の事件番号は、平成28年(わ)第631号(住居侵入、強盗殺人、死体遺棄)である。

刑事裁判では、刑事責任能力の有無がおもな争点となり、弁護側は無罪を主張する見通しである。

2月19日、検察側の論告求刑・弁護人の最終弁論が行われ、検察側は、被告人に死刑を求刑した。この日は論告に先立ち、被害者遺族の意見陳述があった。

3件目の被害者である妻子を失った遺族男性は、「(犠牲となった)妻の人生、娘の人生は何だったのか。自分の家族が殺されて突然一人になったらどう思いますか」などと、裁判員らに訴え、「被告人を許せない」と述べ、死刑判決を求めた。

また、同様に死刑を求める2件目の被害者の妹の意見書も読み上げられた。

検察側は論告で「遺体を隠したり、血痕を拭い取ったりなど、犯行を隠蔽するような行動を取っていることなどから、被告人には責任能力が認められる」と主張した上で、「まったく落ち度のない他人の生命を害することで、利欲目的を達することなど到底許されない」「極めて残虐で冷酷非道な犯行だ」と指弾した。

一方、認否を留保していた弁護人側は、最終弁論で「検察側は、被害者らに対する強盗殺人罪を主張するが、被害者らの家に入ったのは『自分が追われている』という妄想により『追跡者から逃れるため』家に入ったと考える方が自然だ」と主張し、「強盗殺人罪は成立せず、殺人罪・窃盗罪に留まる」と反論した。

その上で、「被告人は犯行当時、統合失調症の圧倒的影響下にあったため、善悪の区別がつかなかった。
犯行を思いとどまれなかった疑いが残るなら、裁くことはできない」と訴え、心神喪失状態だったとして、無罪を主張した。

これまでの公判で、意味不明な発言を繰り返したり、質問に対して明確に答えなかったり、裁判官の指示に従わなかったりしていた被告人は、最終意見陳述で佐々木裁判長から発言を促されたが、何も話さなかった。
このため、公判を通じて被告人からは事件の核心に触れるような発言がないまま結審を迎えた。

2018年3月9日に判決公判が開かれ、さいたま地裁(佐々木直人裁判長)は検察側の求刑通り被告人に死刑判決を言い渡した。

ペルーでは1979年以降死刑が執行されておらず、通常の殺人事件における死刑制度を廃止している。

死刑判決の際は判決主文を後回しにして判決理由を先に朗読することが多いが、さいたま地裁は死刑判決の主文を後回しにせず冒頭で言い渡した。

その後、判決理由でさいたま地裁は「人命を奪う危険な行為と分かって犯行を行っていたことは明らかだ」として検察側の主張通り被告人が犯行当時明確な殺意を有していたことを事実認定した上で「現場から検出された唾液と被告人のDNA型が一致した点から、被害者たちの死亡に直接関与したことが認められる」として強盗殺人罪3件などの成立についてもいずれも「被告人=犯人である」と事実認定した。

そして責任能力の点に関しては「犯行後に被害者の車を奪うなど、金品を得るために一貫した行動を取っていた点が認められ、事件現場で遺体を隠した(犯跡の隠蔽を図った)ことなどから完全な責任能力が認められる」と判断し、弁護人の「統合失調症により被告人は犯行当時心神喪失の状態だった」とする主張を「妄想が犯行に一定の影響を与えていることは否定できないが限定的だ」と退けた。

また、事件で妻・小学生の娘2人を失った被害者遺族の男性は埼玉県(埼玉県警の設置者)に対し、「県警が事件発生などを住民らに周知しなかったため、被害を防ぐ手段を取れずに妻子が殺害された」と主張し、2018年9月14日付で慰謝料約6,400万円の支払いを求めた国家賠償請求訴訟をさいたま地裁へ提訴した。

原告男性側は以下のように「警察権の不行使」の違法性(警察官職務執行法違反)を主張し、被告・埼玉県に対し「落ち度があったことを認めて謝罪してほしい」と求めている。