目黒夫婦殺傷事件

2020年07月

殺傷犯を逮捕するも動機不明、多くの謎が残る殺人事件

2011年1月10日午後4時40分頃、東京・目黒区にある老夫婦の住宅に、老舗デパートの配達員を装った男が訪れ襲撃、鎌を持って応戦した大原道夫(87)さんを果物ナイフでメッタ刺しにして殺害。妻の瑠璃子さん(81)にも軽傷を負わせた。

犯行の経緯と動機

木村容疑者は事件当日の午前、いわき市からJR東京駅まで高速バスで移動したといい、東京駅の長距離バスターミナルの防犯カメラにバスを降りた映像が残っていた。

木村容疑者は大手百貨店の宅配を装い、玄関で応対に出た大原さんに馬乗りになって「殺すぞ」とつぶやき、持参した果物ナイフや大原さん宅にあった草刈り用の鎌で襲った。

夫の悲鳴を聞いて妻が出てきたところ、妻も男に突き飛ばされ、切りつけられた。騒ぎを聞きつけ駆け付けた近所の男性がスコップを持って立ち向かい、他の3人と共に木村容疑者の所持していた鎌を取り上げ、夫を引き離したが、直後に木村容疑者は果物ナイフを取り出し、再び襲い掛かった。再度、近隣住民が取り押さえようとしたが、徒歩で逃走。ナイフは約100メートル離れた路上で見つかった。

司法解剖の結果、夫の死因は刃物で腹部や胸部などを刺されたことによる失血性ショック死で一部の傷は内臓にまで達していた。左手には約10箇所の傷があり、体を守ろうとした際にできたとみられた。

木村容疑者は以前、産業廃棄物の運搬業務に従事しており、夫妻ともに顔見知りではなく、たまたま目に付いたのでその家に入ったそうだ。木村容疑者は知人らに数百万円の借金があり、高級住宅街を狙い金目になる物をを盗むつもりだったが、近隣住民らの助けが来たため諦めた。念密な計画が立てられていたわけではないので、東京のお金持ち夫婦が偶然襲われたとみられる。

木村容疑者には韓国の女性との間に2人の娘がおり、一度に20万円程を送金していたが、そのうちの1人がソウルで入院しているため、知人からの数百万円の借金の他に、治療費も必要だった。

犯人の生い立ち

犯人は福島県いわき市の自称無職・木村義昭(65)で捜査は難航したが、木村容疑者が韓国へ渡航寸前に逮捕となった。

木村は1997年頃、韓国ソウル在住の30代前半の女性と内縁の関係になったが、家族と暮らす福島県いわき市の自宅を生活拠点にしたまま、頻繁に福島とソウルを往復する二重生活が始まった。

その後、韓国人女性との間にふたりの娘をもうけ、年に数回、生活費名目で数十万円を送金していた。韓国を訪れた際に現金を手渡すこともあり、その総額は100万円を上回ることもあったとみられる。

さらに、韓国にいる娘の入院費用が必要となり、昨年秋に知人から数百万円を借りた他、事件後にも入院日名目で借金を申し入れている。1997年頃から、しばらく続けていた二重生活にもゆがみが出始める。不景気のあおりを受けて、産業廃棄物処理を仲介する仕事の受注はここ1、2年で激減したらしい。

主な収入は2カ月に1度支給される年金だけとなっていたようだ。逮捕前日の2月9日、容疑者の口座には現金300万円が振り込まれていたらしく、家族は皆そのことを知らなかった。

木村容疑者は、韓国の女性とは他に妻と次女との3人暮らし。家族は「会話はあまりしなかった」と説明しているといい、家族関係は冷え切っていた様子だ。

犯行当日、容疑者は同居する家族らに「仕事に行ってくる」とだけ伝え、いわき湯本から高速バスで東京に向かった。事件後の容疑者の様子について家族は「特に変わった様子はなかった」と話したが、もともと夫に関心がなかったのかもしれない。

判決とその後

2012年2月10日、1審東京地裁の裁判員裁判で無期懲役判決を受けたが控訴を取り下げた。取り下げは1月18日付で、無期懲役判決が確定した。木村容疑者は「殺すつもりはなかった」と被害者への殺意を否認していたが、東京地裁は「被告は死の結果発生を認定していた」として殺意を認定。「動機が短絡的かつ身勝手」として無期懲役の判決が言い渡された。

この事件について犯人の本名は公開されるものの、写真が全く公開されないことや、事件のその後が全く報道されていないこと、犯人と被害者の接点が全くないこと、お金に困っていたと証言しているがそういった様子がなく近隣住民からの評判も良かったことなど観点から、『鉄砲玉説』や『交換殺人説』といったような説もちらほら出ている。

事件全体を見ても、金目の犯行なのに何故執拗に被害者男性を刺したのか、果物ナイフを用意していたのに何故被害者宅にあった錆びた鎌を使ったか。また、面識がなかったといいながら、最寄り駅から真っすぐ被害者宅へ向かっている点や、犯行後に衣服や靴を履き替えるという用意周到な点等、場当たり的な犯行だったとは考えにくい事件である。