長崎市・医師過労死事件

84日連続勤務・残業177時間で医師が過労死。地裁、病院に賠償命令。

2020年7月10日、長崎みなとメディカルセンター(長崎市)で働いていた男性医師(当時33)の突然死は過労によるものかどうかが争われた裁判は病院側と遺族が和解に合意して、5年越しで決着した。病院側が「すべて受け入れる」とした長崎地裁判決からは、医師の過酷な労働環境が読み取れる。

事件の経緯と詳細

「ご遺族の悲しみと真正面から向き合う。判決でなく和解としたかった」

2020年7月10日、病院を運営する市立病院機構が開いた記者会見で、片峰茂理事長が語った。今年4月、理事長が交代して新執行部が発足。最初の議論の対象になったのが、福岡高裁で係争中だったこの裁判だった。新執行部が一審判決を再検証した結果、「組織としての安全配慮義務違反があった」との判断に至ったという。

これまで過労死と認めて来なかった病院側だったが、4月に新しい理事長と病院長が就任し、対応が大きく変わったという。

医師は2014年12月18日、自宅で内因性心臓死で突然死した。地裁判決によると、死亡の2~6カ月前、1カ月平均の時間外労働は177・3時間だった。厚生労働省の労災認定基準の80時間の2倍以上にあたる。84日間の連続勤務もあった。

病院側は今回の和解を受けて、控訴を取り下げる。7月からすでに医師の配置を見直し、当直回数を減らすなどの取り組みを始めた。この和解を「働き方改革に本腰を入れる契機とする」として、和解合意書を作成。病院側は「事件を精査したところ、異常な長時間労働が男性の死亡の原因であることは明らかであり、過労死として取り扱うべきと判断した上で、率直な謝罪を行うべきと結論した」と和解申し入れに至った経緯を記載し、遺族に謝罪した。

和解内容は記者会見を開いて説明し、HPには会見での公表内容を遺族のコメントと共に掲載。今後働き方改革のための特別委員会を設置し、遺族に対し取り組みや成果について年次報告するとした。

病院はこの日、ウェブサイトで、医師の妻のコメントを公表した。原告ともなった妻はこうつづった。

「主人は運転中、赤信号の短時間でも寝てしまうほど疲れていました。子どもたちの夜泣きで起こしてはいけないと思い、寝室は分けていたので、誰にも看取(みと)られず亡くなっています」
「(和解は)長かった裁判が終わる安堵(あんど)と同時に、主人がいない現実をもう一度突きつけられる感覚です。すべてが解決したと思わないでほしい。病院がどう変わるかが大事だと思います」

また、男性の妻は文書でコメントを発表。

「病院が主人の仕事を認めて敬意をはらい、遺族に少しでも寄り添う姿勢をみせていたら私は民事訴訟までおこしていませんでした。やっと主人のことを認めてもらえることが何より嬉しかったです」

と以前の病院側の対応を振り返った。

今後については「病院は和解をしたことですべてが解決したと思わないでほしいです。人の考えが変われば、組織も変わることを証明してください」と労働環境の改善を求めた。

2019年5月27日、長崎市の病院で働いていた男性医師(当時33)が2014年に亡くなったのは過重労働が原因だったとして、病院を運営する長崎市立病院機構に遺族が損害賠償など約4億円を求めた訴訟の判決が長崎地裁であった。武田瑞佳(みか)裁判長は病院側の安全配慮義務違反を認め、約1億6700万円の支払いを命じた。

判決は死亡の2~6カ月前の時間外労働時間の平均が月177・3時間にのぼり、死亡の約2カ月前まで84日間の連続勤務があったと認定。男性医師は主治医として1カ月あたり平均30・5人の入院患者を担当しており、「相当程度の精神的緊張を伴う業務を日常的に担当していた」と指摘した。

病院側は「医師の外来診療を減らすなどの労務措置をとってきた」と主張していたが、判決は「病院は、医師が自ら申請する時間外労働のみを把握するにとどまった」などとして退けた。

機構は「判決の内容を確認してから今後の対応を検討する」とコメントしている。

トピック:過労死

厚生労働省によると、身体障害者手帳を持つ人の3割が内部障害者で、全国に約151万人いる。働いている人は10万人程度とみられる。

長崎県立大と、内部障害者らでつくるNPO法人「ハート・プラスの会」が3年前に行った生活実態調査では、仕事を持つ当事者約130人もアンケートに協力。職場の人が「あまり理解してくれていない」「全く理解してくれない」と感じている人が計23%いた。仕事上困っていることは、「体力的につらい」「収入が少ない」「精神的につらい」の順に多かった。

医療・本人・職場で健康管理

たとえ障害があっても適切な配慮を受けられれば、日常生活や社会生活を営むことができる――。そんな考え方を基にした障害者差別解消法が2016年春施行された。改正障害者雇用促進法も、事業主に対し、働く障害者に支障となることを改善するといった合理的な配慮を提供するよう義務づけた。

内部障害の場合は、どんな点に注意が必要なのか。心臓病などを抱えながら働く人を多く診てきた「マナクリニック」(神奈川県小田原市)の須田民男医師は「医療、本人、職場の連携による健康管理がカギ」と話す。

労働は「量」と「質」の両方が心身の負担になる要因だとし、制限勤務を含めた時間管理、定期的な面談による業務内容の点検などを勧める。過労死の実態にも詳しい須田医師は「弱い人が大事にされる社会は、誰にとっても安全な社会。何らかの病気を持ったまま働く人が増える中、働きやすい環境作りはすべての人にかかわる問題だ」と指摘する。