広島中央署多額窃盗事件

現役警官が証拠の金窃盗、管理杜撰で関係者ら処分

2017年、広島中央警察署で保管していた広域詐欺事件の証拠品8572万円が盗難された。

2020年、盗難発覚後に自殺した広島県警の脇本譲警部補(36歳)が容疑者死亡のまま書類送検となった。

犯行の経緯や動機

2017年2月、広島県警は生前贈与を語って電子メールを不特定多数に送って騙しとったとされている広域詐欺事件で容疑者5名を逮捕、主犯格とされている男から8572万円を押収して広島中央警察署1階の会計課金庫に保管していた。

翌月15日、署員が事件前では最後に押収品の8572万円を確認した。

脇本警部補は競馬にのめり込み、消費者金融や同僚から借金。うち同僚の6人からは虚偽の理由で約1810万円を借りた。借金の総額は約9300万円に上った。

事件当日の3月26日、日直主任であった脇本警部補は何度も離席して庁舎の外に出た。同日以降、同僚4人に約1千万円を返済する。

同年5月8日、広島中央警察署の会計課金庫から広域詐欺事件の証拠品である8572万円がなくなっているところを会計課長が発見。

盗難が発覚してから間もなく、4月から広島県警本部に異動した脇本警部補が体調を崩し休職していたことや、同僚から多額の借金を背負っていたことが発覚した。

5月15日から9月11日にかけて、9度に渡り任意で聴取を行ったものの、脇本警部補は関与を否定。

9月16日、脇本警部補が自宅で死亡しているのが発見された。体内からは約10種類の向精神薬や睡眠薬が検出され、検視の結果から事件性はないとして司法解剖は行われず、死因は不詳とされた。死亡した当日も競馬をしていたことが明らかになっている。

2020年2月14日に被疑者死亡のまま書類送検。また同僚6人から虚偽の理由で約1810万円を借りたことで詐欺容疑でも送検された。

判決とその後

広島中央警察署の会計課金庫では、本来ダイヤル錠と差し込み式の鍵の二重ロック構造の金庫であるところ、ダイアル錠は使用しておらず、更に約2カ月にわたって点検が行われていないことが発覚した。

盗まれた現金は見つかっておらず、広島県警は幹部や職員の互助組織、退職者組織から8572万円を集めており、穴埋めに充てる方針でいる。

県警本部長は謝罪の上、広島県警署長や当時の金庫の管理責任者であった会計課長ら7人の関係者を処分したことを報告した。

取り調べの録音データと日記

後日、広島テレビにて、県警と脇本元警部補の取り調べ録音音声および、生前残された日記の一部が公開された。広島テレビはこのデータを独自に入手したとし、その一部が一般に公開されたが、録音された音声データは10時間余りに及ぶという。

録音データ(元記事・データは現在削除済みのため文字起こし)

2017年6月6日 県警による取り調べ
<脇本>またやりますよ またやる
<県警>またやるん?競馬?
<脇本>それじゃないと食っていけない
<県警>またやるん ウインズ(場外馬券場)行くってこと?
<脇本>ウインズ行きますわ マークしとってください俺のこと
<県警>金ないじゃん
<脇本>もう俺どうでもいいけえもう
<県警>また任意で取り調べしたいって言ったら来てくれるん?
<脇本>来ますよ そりゃあ行きますよ ただ弁護士には言いますけど 別に黙秘する理由もないし 矛盾点いっぱいあるって自分でもわかっとるし
<県警>矛盾点というのは?
<脇本>金の 俺が捜査側だったらそう思う ホシ(犯人)いいのがおったんですか俺以外に
<県警>おるかおらんかはまあね
<脇本>おったんでしょ 捜査員が減ってきたけえ ちょっと何か警戒が薄くなってきたけえ昨日くらいから

2017年8月2日 広島市内の弁護士と打ち合わせ
<弁護士>5月の2000万円くらい 1500万円くらい? 短期間にそれだけまとまったお金を返済したことはあったんですか?
<脇本>あったです
<弁護士>それは立証できるんですか?
<脇本>それはギャンブルと言っているんですよ 事実そうなんで
<弁護士>今不利な状況証拠は 短期間にかなりの金額を返済していること
<脇本>そうです それとギャンブルにお金を使い込んでいるところ
<弁護士>それが盗んだお金だと問題になる それが過去にもしょっちゅう数千万勝って 数千万円返したことがあったんならいいと思う 立証できるんだったら それが立証できなかったら たまたま窃盗があった前後に たまたま5000万円くらい勝ったということになると
<脇本>5000万円とかそういう勝ち方じゃない 土日があるじゃないですか 勝って 日は違うわけですよ返す日は やっていることは異常なんで それは動機面で言えば300点だと思う 自分でも警察官で逮捕状の捜査状況報告書に絶対に書けるじゃないですか なら裁判所は出すじゃないですか 逮捕状を絶対に そういう状況に来ていると思う
<弁護士>ガサ入ったけど逮捕できなかったというのは 逮捕状を取るだけのことは乗り越えてないわけですよ
<脇本>そうですよね 絶対に逮捕イコール有罪じゃないと警察負けじゃないですか そういう事件じゃないですか 13年間ですけど身を粉にして 尽くしてきたつもりなんですよ 本当に それなのにここまでやってくるというのは よっぽど証拠がない事件なんかなと

2017年8月21日 県警と電話
<県警>脇本くん ○○です あれどうなった?弁護士先生と
<脇本>完全黙秘せえ言われたので もう完全黙秘しますんで
<県警>え?
<脇本>取り調べには行きますよ けど黙秘しますから もう事件とは結びつけんといてください 俺を
<県警>話そうやじゃあ 関係ないんなら
<脇本>完全黙秘せえと言われているんで それでいくんで
<県警>関係ないなら黙秘する必要ないじゃん シロならシロにする捜査しようや
<脇本>しよらんじゃないですか
<県警>しよるよ じゃけえこうやってかけよるんじゃん
<脇本>信用できんし
<県警>冤罪なんかしやせんって
<脇本>冤罪なんかしやせんって なりかけじゃないですか これ
<県警>なりかけって そりゃあ疑わしいけえじゃろ?
<脇本>完全黙秘せえって
<県警>自分が潔白なら潔白と やっていけばいいじゃない

同日、び県警と電話
<県警>自分 大丈夫なん?
<脇本>大丈夫なわけないじゃないですか 死にそうですよ
<県警>今どこなん?家なん?
<脇本>今実家ですよ 1人になったら不安なんで今実家にいます
<県警>薬とか飲みよるん?自分
<脇本>飲んますよ 睡眠薬も飲んでますよ 眠れんけえ
<県警>ふーん
<脇本>本丸 俺なんでしょ?
<県警>本丸?
<脇本>どう思いますか?俺の状況
<県警>お前ちょっとあれじゃのう 協力してちゃんと言えばええんじゃないか
<脇本>弁護士しか守ってくれない 3回も(家宅捜索を)やられた だまし合いみたいなもんじゃないですか ここまできたら
<県警>シロをクロにしようとは思ってないで たぶん警察は
<脇本>いやいやグレーをクロにしようとしているだけで 俺が借金があったり いっぱいギャンブルしとるけえ それをつなげてこようとしよるだけでしょ 苦しいですよ まじでこれ 借金と一緒にされたら困るんですけどほんまに
<県警>そこはそこでシロならシロって言ってくれれば
<脇本>いやいや シロって言っているではないですか いいんですよ真っシロじゃなくても別に グレーでもいいんです クロにはならんので
<県警>クロにならんってことか

2017年9月4日 県警による取り調べ
<県警>どうしたん今日 フラフラじゃん
<脇本>いやいや 大丈夫です
<県警>あれから変わったことないん?競馬した?
<脇本>競馬しましたよ
<県警>またしたん?また調べにいかにゃあいけんじゃん それ言うてや 勝ったんか負けたかくらい 何レースからやったんかとか 9月2日の土曜日に行ったん?
<脇本>黙秘します もう
<県警>黙秘しても自分が不利になるだけじゃろ
<脇本>不利になってもええです もう
<県警>良くない こっちは忙しい
<脇本>盗んだ金じゃないですよ
<県警>じゃないんじゃったら 「こういう金です」と言わんにゃあ
<脇本>いまさら何をそうやってずっとずっと 結び付けるんですかまた
<県警>結び付くじゃろう こんな使い方しよったら 誰が考えても
<脇本>それじゃあくくりゃあ(逮捕すれば) ええじゃないですか
<県警>くくりゃあええじゃないって開き直りじゃろ 使ったお金の原資が分からん 「黙秘します」じゃあ もうこの人犯人じゃない?って 誰がみてもそう思う 警察官じゃなくてもそう思う
<脇本>黙秘せえって言われて一貫して通しますので もうこれ以上は何も俺から出ると思わないでください
<県警>じゃあしゃべって
<脇本>それは脅しです
<県警>脅しじゃないよ
<脇本>黙秘します もう言いたくありません
<県警>なんでそこまで言っといて 今更じゃろ
<脇本>今更じゃなくて そうやってずっと 追い込まれよるので言いたくない
<県警>言いたくない
<脇本>追い込んでますよ 俺を誤認逮捕すればいいじゃないですか
<県警>誤認逮捕はせんよ 犯人じゃないんだったら犯人じゃないでいいじゃん
<脇本>何でそんなに金を持っていたのかと言われても 勝ったとしか言いようがないし ストックしよったとしか言いようがない
<県警>どっから湧いてくるんですか そんなお金が 公務員で
<脇本>公務員と言っても何百万 何億と動かして 競馬しよったわけですから
<県警>そんなにしてないじゃん
<脇本>してますよ めちゃくちゃしてますよ

2017年9月11日 県警による取り調べ
<脇本>精神的ストレスがすごいですよ まじで
<県警>それってうちらも一緒
<脇本>自分のせいでもありますけど
<県警>何をそんなにストレスに感じるんよ 1番は
<脇本>こんなに調べられよること もう来んでもいいですか ほんまにもう まだ終わらんのんですか?
<県警>終わらんよ
<脇本>なんでですか

2017年9月12日 県警と電話
<脇本>脇本です すいません 調べなんですけど火曜にしてもらえませんか
<県警>1時でええんかの?
<脇本>1時でもいいです 何時でも ただできれば午前中起きれんかも分からんのんで
<県警>薬があるしの 分かった じゃあ火曜ね 1時でお願いします

そして、4日後の9月16日、脇本警部補が自宅で死亡しているのが発見された。

脇本元警部補の残した日記

脇本譲警部補が病死したとされる日の前日の2017年9月15日の日記
「やってないことはやったとは言えない」とある=関係者提供
「私は無関係である」「関わった事件の証拠品に手を出すほど金には困っていない」と訴える脇本譲警部補の2017年5月15日付の日記。この日、広島県警の任意聴取を受けていた=関係者提供