津久井やまゆり園殺傷事件

2020年03月

「心失者」という身勝手な信条から、障がい者を次々と殺傷

2016年7月26日午前2時38分、相模原市緑区千木良の知的障害者施設「神奈川県立 津久井やまゆり園」から神奈川県警察・相模原市消防局にそれぞれ「刃物を持った男が暴れている」との通報があった。

事件に気づいた施設の当直職員が、非番の男性職員にLINEを使って「すぐ来て。やばい」と連絡を取り、連絡を受けた男性職員が電話で確認のうえ警察に通報した。

現場に駆けつけた医師が19人の死亡を確認し、重傷の20人を含む負傷者26人が6か所の医療機関に搬送された。

犯行の経緯

死亡したのは、いずれも同施設の入所者の男性9人(年齢はいずれも当時41歳~67歳)、女性10人(同19歳~70歳)である。

死因は19歳女性が腹部を刺されたことによる脾動脈損傷に基づく腹腔内出血、40歳女性が背中から両肺を刺されたことによる血気胸、残り17人が失血死とされ、遺体の多くは居室のベッドの上で見つかっていたことから、植松聖(さとし)(当時26歳の施設職員)が、寝ていた入所者の上半身を次々と刺したとみられた。

また、負傷したのは施設職員男女各1人を含む男性21人、女性5人で、うち13人は重傷を負った。

入所者24人の負傷内容は全治約9日~約6か月間の胸への切り傷や両手の甲への打撲などであった。

被害者の名前について、神奈川県警は同26日、「施設にはさまざまな障害を抱えた方が入所しており、被害者の家族が公表しないでほしいとの思いを持っている」として、公表しない方針を明らかにしている。

これについて「日本では、すべての命はその存在だけで価値があるという考え方が当たり前ではなく、優生思想が根強いため」と説明する被害者家族、本人が生きた証として名を公表する遺族、匿名であるため安否が分からず自分なら公表してほしいとする入所者の友人、根底に障害者差別があるとするなどさまざまな意見がある。

その後、2016年7月26日午前3時すぎ、現場所轄の津久井警察署に植松が「私がやりました」と出頭し、午前4時半前、死亡した19歳の女性入所者に対する殺人未遂・建造物侵入の各容疑で緊急逮捕された。

植松は、正門付近の警備員室を避けて裏口から敷地内に侵入し、午前2時ごろ、ハンマーで入居者東居住棟1階の窓ガラスを割り、そこから施設内に侵入したとみられる。起訴状によれば植松は、意思疎通のできない障害者を多数殺害する目的で、通用口の門扉を開けて敷地内に侵入し、を使って職員らを拘束し、一部を結束バンドで縛り、その目の前で入居者の殺傷に及んでいたが、直接刃物で切りつけられた職員はいなかった。植松は職員らを拘束したうえで、所持した包丁・ナイフを使用して犯行に及んだとされ、また凶器として自宅から持ち込んだ柳刃包丁5本などを持っており、切れ味が鈍るなどするたびに取り換えながら使用していた。

事件後に施設内で刃物2本が発見され、植松は別の刃物3本を持って津久井署へ出頭した。植松は侵入時にスポーツバッグを所持しており、刃物やハンマー、職員を縛った結束バンドなどをバッグに収納し、行動しやすくしていたとみられる。植松は犯行時、鉢合わせした職員らに「障害者を殺しにきた。邪魔をするな」などと脅しており、入居者に声をかけつつ返事がない入居者らを狙って次々と刺していった。

検察側が読み上げた調書によると、植松被告に拘束された女性職員は利用者の女性が就寝していた部屋に連れ込まれ、「こいつは話せるか」と聞かれた。その女性はダウン症で話すことが困難で、「しゃべれない」と答えると、被告はその女性の首付近を3回刺した。職員は「しゃべれない人を狙っている」と気付き、その後は、各部屋に連れ回されて被告に問われる度に「しゃべれます」と答え続けた。

 ところが、「しゃべれます」と答えても、被告は「しゃべれないじゃん」と刺すようになる。職員が「みんなしゃべれます」と泣き叫ぶと、被告は「面倒なやつだ」と言い、廊下の手すりに縛り付け、去った。その後、警察が到着して解放された職員は、襲撃された利用者に駆け寄ってほおを触ったが、既に冷たかったと回想。調書の中で「被害にあった利用者に申し訳なく、自分を責める日々が続いている」と語った。

審理では、被害者の死因やけがの状況も説明された。説明は人数の多さから1時間以上が費やされた。多くの被害者の傷は首付近の上半身に集中していた。

また、別の職員の調書により、唯一実名で臨んでいる被害者の尾野一矢さんが負傷しながらも、拘束された職員に携帯電話を渡し、110番通報につながったことが明らかになった。

前述のように、植松が裏口から施設に侵入したことから、植松は施設の構造・防犯態勢を熟知していたとみられる。取り調べに対し、植松は「ナイフで刺したことは間違いない」などと容疑を認めたうえで、「障害者なんていなくなってしまえ」と確信犯である持論を供述もした。同警察署の捜査本部は翌27日、殺人未遂の容疑を殺人に切り替え、植松を横浜地方検察庁に送検した。

事件で負傷して意識不明となった4人が入院していた病院は、翌27日の記者会見で、4人全員の意識が回復したと発表した。そのうち、20代の男性は首を深く刺されたため全血液量の3分の2を失い、搬送直後には脈をとれないほどの危険な状態だった。この男性は、意識を取り戻して人工呼吸器を外されると、看護師に何度も「助けて」と繰り返し、容疑者として植松が逮捕されたことを知ると「生き返った」と答えた。

入所者のうち、被害を免れた比較的軽度の入所者が、植松が殺傷前に職員に縛りつけた結束バンドをはさみで切断して職員を解放していたことが判明し、捜査本部はこの行為が被害を抑えた可能性もあるとみている。

植松はさらに多数の入居者を襲う計画だったが、西棟2階を担当していた職員の尾野一矢さんが異変を察知して部屋に閉じこもり、そのまま出てこなかったことから、この職員が警察に通報するのを恐れて襲撃を中断し、施設から逃走した。

判決とその後

神奈川県相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で2016年7月、入所者ら45人を殺傷したとして、殺人罪などに問われた元職員植松聖被告(30)の判決公判が2020年3月16日、横浜地裁で開かれ、青沼潔裁判長は求刑通り死刑を言い渡した。

障害者に対する差別的な偏見が大量殺人の動機とされた過去に例を見ない事件であり、植松被告は最終意見陳述でも重度障害者への差別的な考えを主張した上で「どんな判決でも控訴しない」と自説を曲げなかった。